大判例

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名古屋高等裁判所 昭和39年(ツ)10号 判決 1964年5月29日

上告人 加藤徳治

被上告人 高羽たつ

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人は原判決を全部破棄して更に相当の裁判を求める旨申立てた。その上告理由は別紙記載のとおりであり、これに対し当裁判所は次のように判断する。

上告理由第一点として、上告人の主張するところは、単なる事実誤認の主張であつて適法な上告理由とはならないし、原判決挙示の証拠によれば原判決認定の事実は認めうるのであり、採証の法則違反と認められるべきところもない。上告人の主張は失当である。

上告理由第二点について、

原判決が確定した事実によれば、上告人被上告人間に成立した調停に基き、被上告人は上告人から上告人主張の土地を賃借していたところ、右調停調書には被上告人が賃料を三月分以上延滞した場合は上告人被上告人間の賃貸借契約は当然解除となり、被上告人はその賃借土地を上告人に明渡すべき旨の定めがあり、上告人は被上告人に昭和三六年一月分以降の賃料延滞あり右賃貸借契約は解除されたとして、右調停条項に基き昭和三六年七月五日執行文付与を受けるに至つたというのである。

ところで、右調停条項にいう三月分の賃料延滞とは、単に三月分以上の賃料不払の事実があつた場合を指すのではなく、賃借人がその不払につき履行遅滞の責を負うに至つた場合を指すものと解すべきである。右の場合、賃借人である被上告人が上告人に負う債務は賃料支払という金銭を目的とする債務であり、かかる債務の不履行、履行遅滞については、これに基く損害賠償に関する限り債務者は不可抗力によるとの抗弁を以てしてもその責を免れえないことは民法第四一九条の定めるところであるが、本件の場合のように契約解除原因としての履行遅滞については、金銭債務についてであつても、それが不可抗力ないし債務者の責に帰しえない事由によるときは債務者は履行遅滞の責を免れ、契約解除の効果は発生しないものと解すべきである。そして、原判決認定事実によれば、昭和三六年六月六日被上告人は同年一月から五月分までの賃料として、とりあえず従来の賃料額による金員を提供し、場合によつてはさらに一月坪当り一〇円づつ増額してもよいと述べ、上告人の受領を求めたが、上告人はその増額請求をした一月坪当り一〇〇円(乙土地については五五円)の割合でなければ受取れないとして受領を拒絶したというのであり、その間被上告人において当時の正当な賃料額がわかつてもその額を払わない意思ではなかつたと見られるのであり、さらに原判決認定の右提供に至るまでの諸事実に徴すれば、被上告人は、昭和三六年一月から五月分までの賃料債務につき前記調停条項所定の契約解除原因たるべき履行遅滞の責を負うものではないと解するのが相当である。

また、上告人が同年六月一九日になした支払催告も従来の態度をかえて増額請求前の賃料額を受領するとしての催告ではないとしてこれによつても被上告人が履行遅滞の責を負うことになつたことにはならないとした原判決の説示も相当である(なお、同年六月分の賃料については、原判決認定の調停における定めによれば、右催告当時未だその弁済期は到来していないし、上告人が執行文付与を受けた同年七月五日当時においても未だ弁済期は徒過されていない)。

そうすれば、原判決が被上告人に前記賃料債務につき履行遅滞の責はないとした判断は結局において正当である。

その他上告人の主張するところは、原判決が適法にした事実認定を争うもの、または原判決が認定していない事実を前提とするものであつて、採用しがたい。

よつて、民事訴訟法第三九六条、第三八四条、第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。

(裁判官 県宏 越川純吉 西川正世)

別紙 上告理由書

第一、原判決には事実誤認の違法があります。

(一) 原判決は「控訴人(被上告人)は右判決に対し名古屋高等裁判所に控訴したが前記の如く昭和三六年五月一九日裁判官の勧告により控訴を取下げその際少くとも同年五月分までの賃料は右判決判示の割合で受取つてもらえるものと信じていた」と認定しているが。

しかし上告人は請求額(一ケ月一〇〇円及び五五円)については円満に話し合う意思は表示したが控訴取下げの時まで判決で決まつた賃料に据置く意思はなかつたし又そのような意思表示をしたこともない、むしろ昭和三六年一月分より新賃料を以て支払つてくれるよう申し入れてあつたもので原判決が右のように認定したのは事実を誤認したものである。

(二) さらに原判決は「然るに被控訴人(上告人)は昭和三六年六月六日控訴人方を訪れ控訴人が右判決により支払を命ぜられた金一一七、二〇八円及び昭和三五年一二月分の賃料として金四、七九二円を受領したが昭和三六年一月一日以降の分については(イ)記載の割合による支払の要求を固執して譲らず控訴人は同年五月分までの賃料を前記の一ケ月金四、七九二円の割合で支払うべく金の用意をして待つていたので、しきりにその受領を懇請し判決による金額より坪当り一〇円づつ増額してもよいと述べたが結局拒絶されたと認定している。

たしかに(イ)記載の割合による支払の要求を為したることに誤りはないが、しかしそれは、昭和三五年一二月一九日に既に意思表示し爾来引続きその要求をしているのであつて格別この時に至つて新しく要求したものではなく前示判決もその一端を示すものであつて必ずしもこれを固執して譲らないものでなくこの時も話合いにより新賃料を協定しようとさえ考えていたものである、しかるに被上告人は右判決で決まつた分を支払うと上告人の請求額を認める結果になるものと曲解して昭和三六年一月分以降の賃料については右判決が決まつた賃料をも支払おうとせず又賃料の値上げにも応じなかつたものである。そこで上告人は昭和三六年一月分以降の新賃料については改めて裁判によつて決定するの外やむなき旨を告げ昭和三五年一二月分までの賃料を完済したことでもあるので一応帰宅したものであり、原判決認定の如く判決で決まつた賃料を現実に用意して、しきりにその受領を懇請したものでもなければ坪当り一〇円づつ増額する意思は毫もなかつたものである、原判決が右に関する概ね同様趣旨の第一審判決の認定を覆して右の如く認定したことは被上告人尋問の結果及び被上告人申請の各証人の証言に偏重して事実を見誤つたものというべきものである。

(三) 亦原判決は「判決による金額より坪当り一〇円づつ増額しても、よいと述べた」と認定するが

しかし之れは被上告人の隣家に住む訴外西川武と上告人間の本件係争土地の隣地の賃料の値上げを目的とする名古屋簡易裁判所昭和三六年(ハ)第五〇二号地代確認並に請求事件について昭和三八年五月三一日一ケ月坪当り金七五円也とする判決が確定したので被上告人に於ても一ケ月坪当り金五〇円の賃料が適正でないと反省するに至り昭和三八年二月分から一ケ月坪当り一〇円宛増額して供託したのであるが被上告人はそのことを、さも昭和三六年六月六日既に主張した如くに陳述したものであつて真実の陳述でない。

しかるに原判決は被上告人の陳述に偏重して上告人の陳述を排除した結果右の如くに認定したものであり偏頗な採証に因るものであつて是亦事実誤認の謗を免れ得ないものである。

第二、原判決には判断の誤りがあると信じます。

(一) 原判決はその理由において、

右増額請求の効果を訴訟上争つている場合には賃借人としては少くとも第一審裁判所の判断が下るまでは従前の賃料が不当に低くすぎることが明らかであるような特段の事情のなき限り従前の賃料の提供又は供託を継続すれば足りるものと解するが相当である。

と判断し、さらに、

右の見解によればそのような特段の事情が認められない本件においては控訴人は前記認定の如く被控訴人に対し裁判所の判断による従前の適正賃料月額四、七九二円の割合で昭和三六年一月分から五月分までの賃料の提供をしたことによつて右期間分の賃料の支払いについては遅滞の責任を免れたものと言うべきである。

と判示しているが被上告人は「適正賃料四、七九二円の割合で昭和三六年一月分から五月分までの賃料の提供」をしていないのであつて、したがつて「右期間分の賃料の支払いについては遅滞の責を免れ」得ないのであり、この点について判断の誤りを犯しているものである。

即ち昭和三六年五月一九日被上告人の控訴取下げによつて名古屋地方裁判所昭和三五年(ワ)第三四三号事件の昭和三六年一月一四日の判決は同日確定し被控訴人は該判決により昭和三五年七月分から一ケ月四、七九二円の割りによる賃料支払義務を負つたものであるから該判決の確定したる昭和三六年五月一九日において該判決により支払いを命ぜられた金一一七、二〇八円及び昭和三五年一二月分から同三六年四月分までの合計二三、九三〇円から昭和三六年一月分から同年四月分まで一ケ月二、七六二円の割合で弁済供託した合計一一、〇四八円を控除した一二、八八二円也は既に弁済期は到来し同日以降は遅延の責に任じなければならないものである、しかるに被上告人は右金額については乙第一号証調停調書の調停条項一の(二)の規定によることなく直ちに上告人方へ送金又は持参して支払うべき義務あるに拘らずこれを履行せず昭和三六年六月六日上告人が取立に赴いたところ右一一七、二〇八円と昭和三五年一二月分の賃料四、七九二円の弁済をなしたのみで昭和三六年一月分乃至四月分の差額金八、一二〇円については上告人が偶々坪当り月一〇〇円と五五円に増額を請求中であつたのでこれを支払うときは増額を認めたこととなるものと曲解して弁済の提供をしなかつたので上告人は判決で決まつた分の弁済を受けようとして昭和三六年六月一九日被上告人宛昭和三六年一月分から同年四月分までの差額金八、一二〇円也と同年五月分、六月分の賃料九、五八四円との合計一七、七〇四円を同年六月二八日までに支払うよう要求したがその期日までに支払がなかつたので同年七月五日執行力ある正本の付与をうけて強制執行に着手したが未だその弁済がなかつたものであり三ケ月分の賃料額一四、三七三円を上廻る金一七、七〇四円について弁済を遅滞しておつたものである。

もつとも被上告人は上告人が執行に着手した昭和三六年七月五日に執行文謄本を被上告人方え送達を申請したるにより同月八日頃執行文謄本の送達を受けたるにより急挙昭和三六年五月分、六月分の賃料九、五八四円を同年七月一二日に弁済供託し更に右供託後五十五日を徒過して昭和三六年九月四日に昭和三六年一月分から四月分までの差額金八、一二〇円を供託したものであつてその間において幾度か弁済の提供を行なうべき機会に恵まれていたにも拘らず現実にその提供を為さなかつたものである。かりに被上告人に弁済の意思があつたとしても現実にその弁済の提供がなければ弁済の意思があるということを以て弁済の提供を行つたとは言えない原判決がかかる明白な事実を無視して弁済の提供があつたと判断したことは軽卒であつて著しくその判断を誤つたものというの外はない。

(二) 原判決は

「……乙第四号証によれば被控訴人が先になした賃料値上げの意思表示による請求額通りであつたことが認められる。」と判示するが

上告人が乙第四号証により被上告人に宛てて請求した趣旨は第一審判決も認めている通り昭和三六年六月分までの判決により決まつた額による遅延賃料であつて、これまで上告人主張の値上賃料により請求したものではないしかるに原審判決が乙第二号証を採用してこれを判断したことは重大なる誤判である。

(三) さらに原判決は

右判決は昭和三六年五月一九日に確定したばかりであるのに被控訴人の請求額は甲土地につき一〇〇円乙土地につき五五円であるから一挙に約二倍の額を催告したことになりその内容の妥当性も疑わしくその態様においても信義則上甚だ穏当を欠く嫌いがある上に先に認定した如く被控訴人が前からその金額の要求を固執していた事実に鑑みれば右催告に対し控訴人が従来通りの賃料を提供したとしても被控訴人がその受領を拒むことは明らかであつたといえるから控訴人が右催告の期限までに弁済の提供又は供託をしなかつたことを以て債務不履行の責あるものと言うことは出来ない。

と判示しているのであるが。

しかし右判断の根底を帰すものは賃借人の地位を擁護するのあまり賃貸人の地位を無視した独善のものであり判断を誤つたというよりは偏頗な判断であると断ぜざるを得ない。およそ一つの紛争ある場合遠因と近因とが存在することを見逃しては公正なる判断を下し得ないことは自明である。本件の場合近因のみについて近視眼的に視れば洵に原判決説示のとおりと言えるかも知れないが。しかし此処に至る迄の過程について仔細に検討するときはその判断の過ちに気付かざるを得ないのである。

被上告人は係争土地の近隣において上告人と土地賃貸借契約を結ぶ三十六名の賃借人のうち最も悪質な四名のうちの一人であつて被上告人の真意は「被上告人の父親が係争土地の前所有者たる訴外宗教法人地蔵院から格安な賃料で借受けたものであり爾来引続き約七〇年の間に数回の賃料の値上げをのみであるので現所有者たる上告人も当然これを踏襲して極めて低い賃料を以て貸与すべきものである」との観念に立つているものであつて判決により決まつた賃料(甲土地については五〇円乙土地については二七円の割合)と雖も近隣の土地の賃料又は同様の条件のもとに置かれた他の土地の賃料或いは上告人所有の近似する他の土地の賃料に比較すれば著しく低いのであつて安い賃料といえるものである。その上上告人が本件土地を所有するに至つた経緯は訴外地蔵院の幼稚園建設という社会事業に貢献する意味もあつて前記地蔵院の懇請により貸与した貸金の担保流れとなつたもので住宅が密集しており売却して換金することも叶わず上告人としては親切が仇となる結果となつたもので、これにより上告人は金融業を事実上廃業するに至つたものである、かかるが故に上告人としてはその担保流れとなつた土地により最低限の収益を挙げねば固定資産税を支払い生計を営むことは不可能となるものである、そこで訴外地蔵院が許容していた法外な低賃料を以つてしては踏襲は不可能であるので全賃借人に対し社会通念上妥当と考えられるより若干低い賃料に改訂してくれるよう昭和三三年頃から引続いて懇請していたものである、しかるに被上告人は上告人が金融業を営んでいたことのある一事実のみを取り上げて「金貸は非道の者」との偏見を前程とし(このことは原審判決に如実に反影されている)被上告人外三名と共謀して結束して(賃料値上げ訴訟には互に証人になり合つて自分等に有利となる証言をして)多数の他の賃借人を語らい前記父祖の代より借地しているものであることを盾に訴外地蔵院当時の低賃料の夢をわすれかね低賃料を以て対抗し一貫して本日に至つているものである。中には経済事情の変遷その他の事情を考慮して職前の賃料の適正でないことを自覚し任意に何等裁判上は勿論当事者間に於ても争いもなく円満に賃料改訂に応じた賃借人もあつたが(従つてこれらの人にはその後の増額を要求していない)被上告人等の煽動によつて被上告人等に同調したものもあつたが結局はその非を悟つてその後は態度を改めているものが多いのである。これ等の人に対し上告人は五年乃至八年のうちに年五分の割合の利廻りとなるよう賃料を考慮してくれるよう原則として望んでいたことは事実であるが一時に増額を要求したものではない。極めて弾力を以て円満に事を処せんとして臨んでいたものである。

しかるに原判決はかかる上告人の意図を何等斟酌することなく上告人に有利の主張は措信し難いものとして、すべてを排付し被上告人の欺瞞にみちた主張を全面的に許容し

(1)  ………右判決は一月前の昭和三六年五月一九日確定したばかりであるに………一挙に二倍の額を催告したことになりその内容の妥当性も疑わしい。

(2)  その態様においても信義則上甚だ穏当を欠く嫌がある。

(3)  ………その金額の要求を固執していた事実に鑑み………その受領を拒むことは明かであつた。

(4)  控訴人が右催告の期限までに弁済の提供又は供託をしなかつたことを以て債務不履行の責あるものと言うことは出来ない。

と判断したことは重大なる判断の誤りである。

即ち

(イ)(1)  については前判決が確定したばかりであるのに一挙に二倍云々というが右訴訟に於ても元来上告人は甲土地については一〇〇円乙土地については五五円の賃料を主張していたものであつて前判決は名古屋高等裁判所に於ける控訴審において同裁判所は上告人の意図を察して和解を勧告されて被上告人が控訴を取下げ確定するに至つたもので上告人に於ては、もとより不服であつたことは周知の事実である。しかるに上告人は和解により円満に話合いを為すべくその一ケ月に亘り再三話合つたが被上告人は値上げに付ては一切応じないので已むを得ず上告人は当初の主張に立ち返えり催告するに至つたもので判決が確定した直後更らに次の値上げを重ねて要求した場合と全くその事情が異るもので一挙に二倍近い請求をしたものではない、前に述べた経緯を併せて考えるとき決してその内容において妥当性を欠くものではない、係争土地の極く近隣において上告人所有の土地を坪当り三〇〇円の賃料を以て現実に賃借を希望する者もある点からすれば例え従前から長きに亘り賃借しているとはいえ坪当り一〇〇円の賃料は当然妥当のものと認められて、しかるべきであることは論を待たないし隣接の他の賃借人との訴訟においても逐次坪当り一〇〇円の賃料が認められて受領しているのである。

(ロ)(2)  について信義則云々に言及しているが賃貸借が相互契約たる以上信義誠実の原則を遵守しなければならないことは自明であるがこの信義則は一人上告人にのみ負わされるものではないことも亦自明である。

しかるに被上告人は前述の如く勿論徳宜上の面に於ては考慮さるべきであろうが法律上何等の根拠にもならない「父祖の代から寺院所有地を安く借りているのであるからその事情を知つて買受けた新所有者(上告人は買受けたものではない)は当然その事情を考慮し寺院当時の方針を踏襲してしかるべきものである」との観念を以て他を煽動し故意に言を左右にして適正賃料の改訂を拒み続け上告人が値上げを要求する以上賃料の受領を拒むものと早合点して上告人が取立てに赴いても現実に旧賃料すらも弁済の提供を為さず上告人が調停の申立とか強制執行に着手すると纒めて供託して賃料債務は完済しており遅滞の責なしと主張するのが通例であり(このことは昭和三二年七月八日同年四月分以降甲土地に付いては坪当り二九円乙土地に付いては一四円六〇銭の割合で一ケ月の賃料二、七六二円と調停調書により定められていたに拘らずその債務を履行せず遂に昭和三六年五月一九日確定した判決によりその不払い分一一七、二〇八円の支払を命ぜられたことからも容易に推認されるところである)かかる著しく不誠実の被上告人に対して数年の間隠忍して来た上告人が何故信頼して誠実を以て臨まなければならないのか判断に苦しむところである。しかも右(イ)に述べたとおり被上告人が全く上告人の値上げに対して一切応じないので不止得ず近隣の他の賃借人に対し(無茶をいつてゴネたものが利得をするものであるなら円満に解結をして、しかも値上げに応じたものが馬鹿をみた)という印象を抱かしめないよう統制上採つた行為であつて何等穏当を欠く嫌いのある妥当性を疑われるべきものではないものである。

加えて被上告人は本件訴訟においてもその志を同じくするものや使用人を証人として偽証せしめる等の不徳宜を敢えて犯しているのであつて著しく信義則に反しているのは被上告人である。

(ハ)(3)  については前述のとおり上告人は一応原則としての要求はしたけれども、これに固執していたものではない(若し固執していたものであれば前記の控訴審に於て、裁判官の和解勧告により円満に話合いをしていない)第一(二)で述べたごとく原審の事実誤認である。したがつてこれを考慮に入れて「その受領を拒むことは明らかであつた」とは理論の飛躍というの外はない。事実は現実に弁済の提供がなされず受領を拒むにも拒みようがなく上告人に提供されない賃料を如何にして受領出来ようはづは無いことは明かである。

(ニ)(4)  については暴論というの外はない。かりに判示のとおりであつたとしても上告人の被上告人に宛てた催告書には(乙第四号証)明らかに上告人方へ持参するか送金して遅延している賃料(昭和三六年一月分より同年四月分迄の差額金八、一二〇円及び同年五月分六月分の賃料九、五八四円合計一七、七〇四円)を昭和三六年六月二八日迄に支払つてくれるよう求めたものである、してみれば上告人が取立に赴くべき筋合のものではないからその催告期限迄に持参乃至は送金しなければ弁済の提供とはならないし又は供託しなければ弁済したこととはならないのであつて当然被上告人は遅滞の責を負わなければならないものである。かりに判示の如く乙第四号証が更に改訂を要求する額の賃料額であつたとしても判決により昭和三六年五月一九日以降弁済しなければならぬことは周知の事実であり被上告人に於ても熟知の事項であり、既に遅滞しておつたものであるから改訂を求める額の賃料額により計算をされていたとしても遅延賃料の支払いを求めている以上その請求額のうちに含まれているのであつて、その分についても催告されたものと解するのが当然であり請求額が異るので全く別個の請求というは誤弁である。

かりに亦判示の如く上告人が受領を拒むことが明らかであつたとしても既に判決により支払いを命ぜられ当然弁済すべき賃料の支払を怠り被上告人に於て先ず信義則を破つているのであるから上告人が現実に受領を拒んだものなら格別拒むかも知れないという想像のもとに従来は旧来の賃料額により供託することを例としていた被上告人がこれについてのみ、判決で決まつた額の割りによる遅延賃料を供託しなかつたとしても債務不履行の責あるものと言うことは出来ないとするのは不合理である被上告人が遅滞の責任を負担すべきことは当然のことである、

第三、以上陳述したとおり原判決には事実誤認誤判の違法がありますので当然破棄さるべきものと信じますので上告状記載のとおりの御裁判を求めるため上告に及んだものであります。

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